氷山モデル(システム思考)
きっかけ:
この氷山モデル(またはピラミッド)という図解表現には昔からなぜか興味がありました。マズローの欲求の五段階説、無意識の構造とか唯識でいう八識の構造とか脳の三層モデルとか、なぜか深掘りすることに興味があったのかもしれません。あくまでも個人の趣味というか自主研究的な範囲での探索でした。ところがある日、仕事を通じて私にとっては大きな発見をすることになったのです。
忘れもしない、2019年11月5日午後。東京のオフィスで来日中のフランス人達と彼らの会社としての強みが何なのかを議論していた時でした。その際に彼らが言い放った言葉はSystem EngineeringでありThinking in Systems(Systems Thinkingとも言う)でした。システムエンジニアリングは良く聞く用語でしたが、後者のThinking in Systemsというのはその時が初めてでした。これは日本語では「システム思考」と呼ばれています。ネットや書籍でいろいろ調べて見てわかったこと、また付き合いのあるプラントメーカー等に聞いてみて判明したことは、この「システム思考」は、日本の大学レベルでも実質的には殆ど教えられておらず、また日本のエンジニアリング会社においても宇宙航空機等の一部の産業を除いては、殆ど定着していない概念のようです。
なぜこの様な極めて大切で、問題の本質に迫るアプローチを日本の多くの人が知らされていないのか?
この概念は元々米国発の様ですが、私が付き合っていたフランスのエンジニアリング企業は大抵この「システム思考」を大学や会社に入ってから学ぶ様で、皆さん一様にこの思考パターンを身につけている様に見受けられます。昔フランスに駐在していた時に、フランス人は、個人的に勝手な命名ではありますが、「フレームワーク発想」のできる国民性と認識していましたが、なぜその発想が身につくのか不思議でしたが、これで謎が解けた気がしました。
前置きが長くなりましたが、では「システム思考」とは何なのか?なぜそんなに大事なのか、そしてどの様に応用できるのかについて詳しく説明していきます。
目次
1. システム思考とは?
2. 氷山モデルとは?
3. なぜこの概念がそんなに大切なのか?
4. どんな風に応用できるのか?
5. まとめ
図解
解説
1. システム思考とは?
「風が吹けば桶屋が儲かる」と言う表現があります。米国では「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こす」とか言う表現もあります。いずれも一見何の関係の無い様な現象なのに、実は目に見えないところで関係性・連続性があることを表現したものです。「因果応報」も然りです。「作用反作用の法則」も然りです。問題は原因と結果が目に見えやすいものであれば誰にでも分かりますが、その関係性が分かりにくい場合、それを深掘りする力、見抜く力、それをシステム思考と呼んでいます。
世の中の現象は、様々な要素がお互いに影響を与えたり、与えられながら相互に支え合っています。マクロで言えば、宇宙の法則、月の引力から潮の満ち引き、太陽の動きから暦や昼と夜、春夏秋冬。自然界での生態系(エコシステム)、食物連鎖を一つの仕組みと捉えること。人間界で言えば、食卓縁起、親祖先家族関係、友人知人や職場での人間関係や社会集団などを体系的に捉えること。ミクロで言えば、人体機能を支えるホメオスタシス(自律神経系・内外分泌系・免疫系の恒常性維持機能)の働きも一つの仕組みであること。これら一連のつながりが「仕組み」として考えられことがシステム思考と言われています。つまり、世のマクロ・ミクロの一切の事象が起きるもので、何らかの要素が絡み合っている「仕組み」を「システム」とみなす考え方なのです。日本語の「縁」や「縁起」がそれに相当するのかもしれません。システム思考は「仕組み思考」とか「つながり思考」と言い換えられるかもしれません。
人間は見えている部分だけにどうしても意識が行ってしまいます。しかしそれが為に、物事の本質が往々にして見えない、見抜けない。そんな場合に、この「システム思考」は、物事を全体的に多くの角度から俯瞰し、現象が起きる原因や構造の関係性に着目しつつ、複層的に深掘りすることによって問題の核心に迫るアプローチであると言えます。システム思考ツールキットには以下の通り複数あります。ここでは全てを説明することができませんので項目だけリストして置きます。
1) 相互関係性(多くのものがつながっていることを図解)
2) 統合・合成(細分化していく分析思考ではなく、2つ以上のものを合成するアプローチ)
3) 出現(サナギが蝶になるような変化)
4) フィードバックループ(複雑要素の絡み具合をループで図解)
5) 因果関係(因果関係を図解)
6) システムマッピング(氷山モデル、因果ループ図、つながり関係性図解)
2. 氷山モデルとは?
システム思考の中身は上記のように多岐にわたっていますが、その中でも特に「氷山モデル」のアプローチをここでは取り上げたいと思います。
フランス人に言われてこの氷山モデルを研究し始めた時、まず驚いたのは、見える氷山を「出来事」と見て(ここは誰でも理解できる)、水面下に沈む複層を、まず「パターン」とみなし、次に「構造」と呼び、さらにその下には「メンタルモデル」、そして最深層には「コア」(ここはコンテイナーと呼んだりしていますが、ここでは「コアCore」を採用します)とみなした点です。つまり複雑な深層構造をこれらの5つのシンプルな概念で整理した洞察力に脱帽します。
では複層構造を層毎に説明していきます。
【1】 「出来事」
誰の目にも見えるものであり、イベントであったり、現象であったりするもの。
【2】 「パターン」
時間とともに変化する傾向。1年365日、四季や二十四節気の自然のパターンという時系列パターンや社会のトレンド、ライフサイクル、また身近なところでは行動パターンがあります。目に見えるパターンと見えにくいパターンもあります。私たちが生きる世界は循環サイクルであり、自然災害や地震も一定のパターンがあると言えます。
【3】 「構造」
「パターン」を生み出すもの。「構造」は何らかの因果関係から成り立っています。パターン間にも何らかのつながりあります。直線的な因果関係もあれば、循環的な因果関係もあります。「構造」とは、仕組みや骨組みであり、
物理的建物(インフラ)や、組織的(政府・企業・学校)なものであったり、制度的(政治・経済・財政・教育)なものや、慣習的な仕組みであったりします。
相互関係性も外的なものと内的なものがあります。例えば、大自然の生態系の中には食物連鎖という仕組み、構造があります。人間の世界では、家系図も構造にあたります。
【4】 「メンタルモデル」
「構造」がそのまま機能し続けさせるものを言います。価値観・信念・観念・思い込み・信じ込み・道徳・倫理・期待・態度・思想・考え方・文化・暗黙知・理由づけプロセス・「〜ならば〜すべし」・世界観・文化等々です。また「構造」や「メンタルモデル」を形成することにつながった「利害関係者」の存在があるはずです。親、家族、兄弟、身内、友人、恩師先輩後輩等々の習慣や癖から影響を受けています。
【5】「コア」(「コンテナ」とか「ビジョン」とも呼ばれている)
「メンタルモデル」を形成したり影響を与えたりする思考の枠組みのことを言います。価値観や世界観のコア・ビジョン・人間普遍・人類普遍的なもの・伝統・教え・イメージ・物語・神話等です。例えば、今、海外に行ったことがない日本人が中東の国に住んだとしたら相当なカルチャーショックを受けそうなことは容易に想像できます。つまり日本文化と根本的な違いを感じたときに、比較を通じて、表面的ではなく普遍的なもの・こと・存在があることに気づかされます。
同時に、分かりやすく説明する為に例として「カラオケでの選曲」を題材に考えてみました。あくまでも一つの考え方です。
説明します。
① 氷山上の「選曲」:これは誰の目にも明らかですね。
② 「選曲パターン」:その人が数曲選んだ歌に潜む「選曲パターン」が何なのかについて思いを馳せる必要があります。
③ 「歌詞・曲」:上記の選曲パターンを構成する要素として、その人の選曲が歌詞なのか曲(メロデイー)なのか、どちらか中心なのか、またはその両方なのか、を考えてみます。例えば、私の場合、英語の歌が好きで選曲するとなると、それは歌詞ではなく「メロデイー」主体であることに気づきます。歌詞の意味を知らない(理解できない)で歌を好きになってしまうことが多いです。
④ ではそのメロデイー性ですが、大体が「悲しい調べ」が圧倒的に多いことに気づかされます。元気が出る曲も好きですが、深く安心するには「悲しい調べ」が落ち着きます。
⑤ ではなぜ「悲しい調べ」を好んでしまうのか?面白いのは、実は「悲しい調べ」は自分にとっては、本当に悲しいのではなく、「安らぎを与える調べ」のような気がします。
さて、ここで具体例を1つ出してみます。これは「メロデイー」と「歌詞」の両方で魂から揺さぶられるケースです。2013年『アナと雪の女王』は日本でも映画も主題歌”Let it go”も大ブレークしました。最初英語で聞いたとき、ああいい歌だと思いましたが、日本語の歌詞が「ありのまま」という訳語の素晴らしさもあって、自分の魂の奥底に潜む何かを引き出します。その何かをうまく表現できないのですが、この歌詞とメロデイーを聞くたびに涙を誘うのです。ひょっとしたらしたら過去生とか前世とかいうものなのかもしれません。
1. なぜこの概念がそんなに大切なのか?
ここまで読んできてもうお分かりになったと思いますが、ここでは項目のみ整理してみます。
① 物事の本質を見る目を養うことになる:
② 客観的・俯瞰視点を養うことになる:
③ 上記のことから仕事ができる人になる:
④ 人生を深く味わうことができるようになる:
2. どんな風に応用できるのか?
① 仕事に応用:
通常私たちが仕事で使っているビジネスツールとは殆どが「見えるもの」を前提としています。つまり「分析思考」主体です。プロジェクトマネジメント、PDCAサイクル、ロジックツリー、5W1Hなどのビジネスフレームワーク集があります。システム思考は、見えないものを見える化するアプローチです。
仕事で応用できるのは、ズバリ「質問力」です。
特に営業に携わっている人の場合、自社の扱う製品説明は完璧にこなせるのだが、顧客のニーズが引き出せないとお悩みに方におすすめです。商品AからEまでメニューを持っているとします。相手の顧客がどんなものに関心興味があるのか、何か課題を抱えているのかをいろんな話題を振って探るとします。何か課題なり興味があることがわかったらそれが氷山であり、そこから深掘り開始です。商品を売り込むという姿勢ではなく、何かお役に立てることはないかと耳をダンボにして相手の課題からそのパターン、構成要素、メンタルモデルを念頭に置きながら、聴きまくるのです。ぴったりとしたパターンとか構成要素が出てこなくとも、課題や興味を因数分解していく気持ちでやれば、顧客の課題の根っこが見えてきます。
また、身近なところでは、例えば上司から、この仕事をやってくれ、と言われたとします。この時、普通は言われるがままにやってしまいがちです。しかし、一歩踏み込んで、「何の目的のためにやるのでしょうか?」と聞くことによって、頼まれた仕事の精度が上がります。
「深掘り力」トヨタの「5つのwhy」も深掘りという意味では基本的には同じだと思います。Whyを5回唱えれば問題の核心に迫れる、というものです。深掘りの仕方は異なります。
「俯瞰力」:目の前の課題に取り組むとき、視野狭窄で見るとの視野拡大で見るのとでは大きな違いがあります。視野拡大に加えて時間軸拡大で眺めると、目の前の課題に対する取り組み方が変わります。抽象度をあげて見れるので俯瞰することにつながります。
「目利き力」「洞察力」:初めての製品技術を見るとき、その技術の背後に潜む技術開発者のメンタルモデル(エンジニアの魂とか匠性や開発にかける想い)にまで思いを馳せるとその開発者の生き方、生き様までが見えてくることがあります。
「全般的仕事力」:仕事のやり方についてこんな言い方があります
レベル1:「言われた通りにやる人」
レベル2:「先手で考え、問題が起きる前に解決できる人」
レベル3:「先手必勝精神でビジネス上の機会と成長のチャンスを嗅ぎ分け、取り込もうとできる人」→これこそ氷山モデル型仕事人。
② 人間関係に応用:
相手を見るときに、相手の発する言葉や感情だけにとらわれることが少なくなります。相手の言葉や話の内容には何らかのパターンがあり、そのパターンには構成要素(構造)があり、それらはその人の価値観や思い込みが背景にあります。その思い込みは、その人の親との関係性、幼少時期の体験などが
挨拶もあまりしない、怒りっぽい上司がいるとします。その事象は、誰にもよく見えますが、普通それ以上は深掘りすることは無いです。しかし、システム思考すると、なぜ怒りっぽいのかを考えるきっかけを作ります。さらに怒るときのパターンが段々わかってきます。例えば、時間に遅れると異常に怒るとか。つまりパターンを構成する要因は、時間ということであり、そのメンタルモデルは、時間厳守となります。ではなぜそこまで時間厳守となったのか、そのコアは何かというと、一つの見方ですが、例えば、幼少の頃親に遅刻するなとか散々言われた体験が原因なのかもしれません。
大切なことは、その人がなぜ怒るのかを理解することができるのみならず、相手をより「受容」するキャパシティが増えることになります。一方的に主観的だった自分が、客観的な見方が以前よりできる様になる、ということだと考えています。
③ 天命発見に応用:
e天命塾ではまさにこのシステム思考の氷山ピラミッドを応用しています。私たちの意識・無意識の複層・深層は、複雑な思い込みや固定観念、世界観、価値観などで混在していますが、これらを整理し見える化し、強弱濃淡を浮き彫りにしていくプロセスではこのシステム思考は欠かせません。氷山は自分の体験や経験で、パターンとは自分の没頭体験、つまりお金や時間やエネルギーを費やしてきたものには一定のパターンがあるとみなします。ではその没頭パターンを構成するものは何か、なぜ没頭してしまうのか。それはわくわくを感じるものであったり他の人よりよくできて褒められたからだと考えます。つまり構成要因は「わくわく」とか「強み(見える)」であったりします。ではそのわくわくを生み出すのは何かというと、その人の価値観でありビジョンであり、良心であると考えます。さらにそれらの価値観や良心やビジョンを生み出すあなたの根本があるはずで、これをe天命塾では「天命動詞」と「強み(見えない)」と位置付けています。
→具体的なやり方は、「天命発見プログラム」を参照下さい。
④ 人生を深く味わうのに応用:
私たちは生きている、と思っています。普通は、私たちは生かされています、とは思っていません。しかし、生きているという現象を出来事とすると、そこに潜むパターンとは何か?それは、健康であることであり、また先祖代々から連綿と続く命の連鎖というパターンということができ、そのパターンを構成する要素とは、先祖の方々の存在、その存在を許した日本という国の存在、さらには大自然の恩恵(恵み)、地球や宇宙の循環のおかげと言えます。これらの構成要素に潜むメンタルモデルとは何か。争いをできるだけ行わないで生きたい方がいいという世界観、協力し合いながらの方が幸せになるという価値観。そしてそのコアとは、自己保存や種の保存という人間の本能、さらには宇宙大自然のかけがえのない摂理ということになります。つまり私たちは生きていると認識することは実は表面的な捉え方であり、実はその背後には多くの人や大地の大いなる営みのおかげで自分のいのちが生かされている、ということに気づかされます。
3. まとめ
システム思考は、仕事のみならず人生そのものを深掘りし、豊かにするアプローチです。日本人はもともとwhyを連発する民族ではないようです。哲学者も少ない。上から言われて素直に捉えるといういい面がある一方、自分で深く考える習慣が少ない。これからの時代、仕事上でも日常生活面でも、表面的ではなく深く捉える習慣によって仕事を味わい、人生を深く味わう生き方にとても役立つアプローチだと考えます。
キーワード:システム思考、氷山モデル、システムエンジニアリング、仕組み
参考文献:
・『学習する組織The Fifth Discipline』ピーター・センゲ
・『世界はシステムで動く』ドネラ・H・メドウズ
・ネット上の数々の論文で特にDaniel Kim氏の論文内容”Systems Thinking, the Iceberg theory of Daniel Kim”が参考になった。
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